
みなさんは、蓮という花を知っていますか。蓮の花は、とても美しい花びらで有名ですが、草木が青々と茂る野原のような場所では育ちません。逆に、じめじめとした汚い泥水の中で、何ヶ月もの間じっと茎を伸ばし、夏の暑くて湿った時期に、泥から顔を出し、美しい花を咲かせます。この清らかな姿から、蓮の花は、仏教を象徴する花として知られ、お釈迦様の時代から、世界中で大切にされ、古い彫刻や絵にも描かれています。
私たちはつい、さわやかな風が吹く高原のような土地こそ、美しい花が咲く場所にふさわしいと思いがちです。しかし、蓮の花は、咲く場所が汚い泥の上だからこそ、その美しさを際立たせます。それは、人間が泥の中で、悩み迷い、もがき苦しんでいるからこそ、苦しみのない世界を目指し、悩みや迷いをぬぐい去った自分になりたいと思って、立派に成長できることと同じです。
仏の世界を目指すことは、居心地のよい場所では、とても難しいことです。たとえば天界は、いずれ寿命が尽きて苦しみの世界に落ちてしまいますが、楽しみの多い世界であるために、仏の世界を目指そうという気持ちが起こりにくい場所です。それに比べて、人間界は、汚い泥が蓮に栄養を与えた結果、きれいな花が咲くように、悩みや迷い、苦しみのある世界だからこそ、仏の世界を目指すことができるのです。
泥凡夫として
自分の苦しみや悩みを受け止めることは、とても難しいことです。気に入らないことがあると腹を立てたり、落ち込んだりするのが私たち人間です。こうした私たちのことを、仏教では、「泥凡夫」といいます。
ことわざに、「若い時の苦労は買ってでもせよ」とありますが、美しい蓮の花を咲かせる泥のように、苦しみや悩みこそが、これからのみなさんの人生で、大輪の花を咲かせる栄養となります。
このことを深く自覚できれば、人生で出遭う、どんな悩みや迷いも、苦難さえも、前進していくためのバネとなり、大きなエネルギーになります。そうして苦難を乗り越えていく人の姿は、美しく光り輝いて、他の多くの人々を、幸せへと導いていくことができるのです。
文・
青空 みやび
◀️本棚49 1頁
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142434445464748495051525354555657585960616263646566676869707172737475767778798081828384858687888990919293949596979899100101102103104105106107108109110111112113114115116117118119120121122123124125126127128129130131132133134135136137138139140141142143144145146147148149150151152153154155156157158159160161162163164165166167168169170171172173174175176177178179180181182183184185
