友だちとの関係、将来のことや恋愛のことなど、悩みは尽きません。長者の息子も、悩みや苦しみから逃れるため、長老や先輩の比丘からの様々な教えを実践しましたが、いつしか苦しみを感じるようになり、結局、全てを投げ出そうとしました。
もし、皆さんが「テストでよい点を取る」「部活の試合で勝つ」などの目標を立て、その達成のために何をすべきかと聞かれたら、「あれもしなければ」「これもしなければ」と、たくさんの課題が出てくるのではないでしょうか。だからといって、思いついたこと全てを実行しようものなら、疲れてしまい、長者の息子のように、目標を達成できないことにもなりかねません。長者の息子が疲れてしまった原因は、いろいろな修行に目移りし、あれも、これもと、手を出して、全てを中途半端にしてしまったからです。
物事を中途半端にすることは、もともとの「目標」を見失わせ、さらに、目標を達成しようとする「心」さえも駄目にしてしまうのです。だからこそ、釈尊は、長者の息子に、「心を守ること」という一つの修行に集中させたのです。
これと同じように、皆さんが目標を立てた場合、そこにたどりつくための課題や方法は、たくさんあるでしょう。しかし、次々と手を出すのではなく、一つの課題に向き合って、着実にやり遂げることが大切です。
集中とは、徹底するということです。
「徹底して一つのことをやり遂げる」ことは、「手がけた」とか「やったことがある」という以上の、大きな意味があります。山の頂上に立った者だけが、そこからの広々とした眺めを見られるように、「やり遂げる」ということは、その人にかけがえのない経験をもたらします。その経験こそが、将来にわたって、流されることのない、「心を守る」砦となり、確固たる自分をつくるのです。
文・
秋空 あゆむ
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